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2018/12/30(Sun.) やり場のない憤り [長年日記]

[Review][Book] またしてもリブロネタ

リブロは何人もの人が企業で起こったことを書き散らしてくれていて、一大叙述詩として多面的に起こったことを捉えることが出来、非常に得難い企業である。

そんなわけで、リブロ池袋本店の店長だった菊池壮一氏が書籍を上程しているので、気になったことをレビューしてみる。

書店に恋して
菊池壮一

リブロ2代目社長・市原穣の評価

リブロは書店OBと出版社OBのたまり場だったと言われる。その中でも本を出すほどのOutputが出来る人たちによって、リブロ2代目社長・市原穣は冷たく書かれてきた。黄金期の後の社長として評判は概ね良くない。

だが、一方で小川道明初代社長が絶対に正しかったのかと言えば、影の部分も確かにあったことが、後ろに下った書籍・雑誌では言及されている。

先日、「わが記憶、わが記録 - 堤清二×辻井喬オーラルヒストリー」を図書館で借りて目を通した。そこにはリブロとリブロポートについての堤清二評も納められている。雑誌「ユリイカ」の2014年2月号 堤清二/辻井喬特集で中村文孝氏が話していた「堤さんは小川さんのことを評価していなかった」という内容と同じような内容が展開されている。

「自分の好みが入ると売れない本屋が出来るから、リブロの経営には入らないよ」という宣言をした話の上で、担当者は書店だけにとどまらず出版もやりたくなるのだとし、そしてリブロは小川さんが独裁しており影響力はなかったと話し、リブロポートは在庫が多く整理するのに時間がかかったと評価している。なんと、「小川さんは私の知り合いでは無くて、誰かが連れてきた」とまで冷たく書いている*1 *2。その上で、「失敗して今の経営者になって立ち直った」としている。インタビュー時のリブロの経営者は市原穣その人である。

菊池氏は嘆く。

この頃辞めた人で市原のことを良く言う人は少ないが、私は真のリブロの礎を作ったのは彼だと思っている。堤やファミリーマートを説得して過去のしがらみや債務を払拭し、リブロを健全なスタートラインに戻すことができるのは、市原以外にいなかったに違いない。

同著では、市原穣社長時代の話が詳しく載っている。市原との最初の仕事は、リブロポートの倉庫の点検だったという。天井まで積まれた書籍の在庫について言及するシーンが出てくる。その後、ファミリーマートにリブロポートを譲渡して片を付ける経緯について書かれている。

「1億円の利益とは、てら銭・あぶく銭的なものである。一部上場企業の優良会社であるファミリーマートは、いずれムダな経費として見直しを図るだろう。ならば今のうちに不良子会社を精算してもらって、まともな利益を構造を作っておきたい」

正直唸った。常々リブロは成長産業であるコンビニへの雑誌卸をやめてしまったのが不思議でならなった。同著に拠れば年1億円の利益を上げていたという。いずれ来る見直しに先んじて、取引条件に使って不良債権処理に成功したのである。これぞ経営判断である。間違いなく正しい判断だっただろう。リブロポートと抱き合わせのままだったら、さすがの日販も2003年に買収すること無く諦めて、リブロは試合終了していたのではないか。

この1点をもってして市原穣の功績は堅い。


新文化2016/8/11号に掲載された「リブロ池袋本店、閉店から1年経って」という記事から菊池氏の市原穣擁護の話は載っており、コスト感覚を叩きこまれた話と感謝が載っている。同著でもその記事の内容が踏襲され、個々の内容が詳しく言及されている。内容をまとめると、以下のように思われる。

  • 成果を出したもの
    • レンタル店との複合店舗に反対*3
    • ファミリーマートのエリアFCだった岩田屋とのコネクションで岩田屋天神本館へ出店
  • 失敗に終わったもの
    • ロードサイト店に目を向け、小型店、郊外店を中心とした店舗開発を促進
    • チェーンオペレーションの導入を目指し、品揃え・本の並びまで統一することを要求
  • 成果を出したと考えられるが断定は出来ないもの
    • 池袋本店において専門書で無く雑誌を一等地に持ってきたこと

成果を出した話は興味深い。一方で、失敗に終わったものはまさにトップが変わると説明をゼロからする必要があるもので、組織人なら経験も多い徒労だろう。

市原穣を評価していない本を書いたと思われる今泉正光氏にせよ、中村文孝氏にせよ、田口久美子氏にせよ*4、儲けを考えなくて良いという考えではなかったことは一連の図書を見れば分かる(小川社長はその限りではなく、それを懐かしむ記述はそれぞれある)。だが、書店が儲けるためには、ロードサイト店や書棚の均一化は手段として有効では無いと考えていたのは無いか。菊池氏は説得することにストレスを感じていなかったようだが、リブロを出て行った諸氏は相当のストレスだったのだと推察する。そこは、リブロでの発言力の相対推移の違いでしか無いのではないか。

市原穣は間違いなくリブロの礎を築いた。だが、その時代にリブロを出て行った人たちが、西武百貨店への依存や書店としての利潤軽視を是としていたかと言えば違うのであり、菊池氏はその点を捉え違いしているように思える。……まあ、在籍時にいまのリブロは本屋でない、とされればそうなる気持ちは分からなくも無いのだが*5 *6


最低賃金批判のお門違い

菊池氏は最低時給アップが経費的に痛いことを嘆く。東京都下では1000円超のところもある、地方では最低賃金以下の求人票もある中でリブロは規定通り最低賃金で出したら応募書が殺到する話を書き、挙げ句の果てに経営者が外国人労働者採用に流れるのもやむを得ないと書く。

最低時給倒産しかねないのが書店であるということを認識して欲しいと思う。

上記は全く同意出来ない。怒りの矛先が違うのではないかと断罪せざるを得ない。人件費が高騰した場合、商品価格を再検討する、つまり値上げするしか無い。最近流行のステルス値上げも工夫の一環ではないのか。それが、再販制度のせいで値上げが出来ない。批判すべきは価格決定権を小売りで持てない再販制度そのものであり、さらに言えば逆ザヤで暴利を貪るいくつかの出版社と、業界衰退に見合わない価格設定・原価構造を是とする出版社ではないのか。経営が厳しい零細出版社と言えども、人件費高騰を吸収し得ない価格設定をしているのなら、批判は免れない。1980年代のリブロにせよ、1990年代後半からのジュンク堂にせよ、書店は選書が出来る人を売りにした書店だけが名声をほしいままにしている。それを20年以上見てきて人に金をかけるべきで無いとするのであれば、書店は衰退やむなしである。いや、念頭にあるのは、選書するようなバイトでなく、レジ打ちや重労働である搬入を支えるバイトのほうかもしれない*7。それら単純労働のバイトが減ったのは少子化と主婦の減少という社会構造の変化によるもので、過去世代における家族計画の先見性の無さを糾弾するより他に無い。そもそも、書籍というプロダクトを商売の種にしている出版社からしたら「電子書籍」という、書店人件費を載せなくて済むコスト改善策がある。そうなると、書店は存在意義を失う。人件費批判はまさに自傷行為だ。

こんなことを日販子会社の書店の要職を務めた人が言うようでは、この業界は潰れた方が良いと言わざるを得ない。顧客に買ってもらえないものを売る企業は潰れるしか無い。どんな小店舗でも正社員を3人付ける小川初代社長の反動が大きすぎたのか、正直この記述は頂けない。仮にも取次資本のリブロは、この構造であるが故に書店の経営が苦しいのだと改革を主張する側の立場では無いのか。いや、仮にも取次は書店の客で無くて出版社の方に忖度をしないといけないからバイト代をケチる話を書かなければいけないのかな。書籍が新聞のように再販制度に加えて軽減税率をGETして政府の犬に堕さないことを願うばかりだ。

なお、リブロの首を落とすに至った「定期建物賃貸借契約」の話、減損会計や資産除去債務の不合理、テナントPOSシステムの悩みなど、書店業を悩ます話題は他にも豊富に触れられており、そちらについては書店に同情する。


西武百貨店という企業

この本を読むと、西武百貨店という企業が信頼に値しないエピソードで溢れている。正直、西武で買い物をすることは、考えざるを得ない。

堤清二が最近クローズアップされているし、自分も評価している面が多数あるのだが、堤清二を持ってしても、人間としての道徳や最低限の礼儀を祖業の百貨店に広めることは出来なかったのだなと評価せざるを得ない。それは、西洋環境開発や東京シティファイナンスの失敗以上の失敗のように見える。ところが、いくら経営者が優れていて、心を高める経営を謳う企業であっても、そういった人と人の気持ちよい約定というのは達し得ないことが多いことを数多く仄聞している。決して西武百貨店やセブン&アイ・ホールディングスだけが非難されれば良い話では無いのだ。道徳・礼儀・仁義は営利企業にとって一番難しいのだと思い知らされる。

*1 これまで通説とされていた「知人であった堤じきじきに書籍部の部長に誘われた」話を否定する内容である

*2 一方でリブロ池袋閉店時に掲載された堤清二のメッセージには、「小川さんが人を集めたことでリブロの今がある」と評価する面を書いている。どちらも率直な評価なのだろう。だいたい、田口久美子氏の『書店風雲録』ではそもそも出版を始めることに逡巡していた小川さんにいつになったら始めるんだと迫った証言すら乗っている。この破綻こそ堤清二の真骨頂。堤清二周りではよくある話である。

*3 「FCには絶対になるな。俺が言うんだから間違いない」という主張は金言である(笑)

*4 なお、同著では三氏への言及はあるが、参考文献としては一冊も挙げられていない

*5 作中には市原穣と中村文孝氏とが一緒に仕事をしていた時期の話もあり、中村氏の退職時には「残ればいいのになあ」と社内で思われていたという記述もあるが、菊池氏は市原さんを説得するのは負荷と思ってなかったのだろうが、中村氏は相当の負荷だったのだろう。壮年で権限もある、心血を注いだリブロを辞め、ジュンク堂書店池袋本店の地下で売れ線書籍の確保という仕事にシフトした中村氏の心中を思う

*6 リブロを辞めた人は当然書籍を出した人だけではないため、それらの人々のぶんを菊池氏は念頭に置いている可能性はある

*7 書店で外国人労働者採用か、と正直驚いた。業種によっては外国人労働者無しでは回らない現状は把握しているので、念のため

[ETilog] 閉店間際のはてなダイアリー

「はまぞう」でAmazonの書影がもう出ない。でも、rakuten記法ってはてなブログ未対応なんだよなあ。。。

[ETilog] デグレ

http://d.hatena.ne.jp/hatenadiary/20181228/1545975114

分かっていた内容は多いのだが、今更ながらまとめられた記事が出てきた。

「日付についたタイトル」の廃止が大きく、この件があるゆえにはてなブログ移行は有り得ないというのがかねてよりの検討事項であった。

一方で、はてなダイアリーからtDiary移行する、なんて人はついぞ発見できないのであるが……(ここにいまーす!!)

[ETilog] 新ブログ準備

過去コンテンツの整理を始めている。

研究がらみで守秘義務*1に関係する話を落とすかと思ったのだが、存外無い。多いのは、明らかな病み発言の嵐である。……この「TOKYO REVIEW SHOW」でも頻繁に出てるし、これらは別にそのまま出してもいいか。

*1 なお、契約書の類は無い


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